ZERO to ONEに見る環境スタートアップが難しい7つの理由
ペイパル創業者であり、エンジェル投資家でもあるピーター・ティール著の「ZERO to ONE」を今更ながら読了しました。かなり有名な本でもあり、話題にもなっていたので読みたかったのですが、なかなかタイミングなく今になってしまいました。
今回は、ZERO to ONE内で環境事業に関する言及があったためブログに残しておきたいと思います。
ピーターティールは、環境事業を興すことは難しいと言います。また、そこには7つの大きな要因があると言います。イーロンマスクの「ソーラーシティ」は、この7つを全てクリアしています。
- エンジニアリング
- タイミング
- 独占
- 人材
- 販売
- 永続性
- 隠れた真実
また、ピーター・ティールは21世紀初頭にはクリーンテクノロジーバブルがあったと言います。誰もが再生可能エネルギーに可能性を見出し、そこに起業家と投資家が集まっていました。ただし、上記の7つを満たしてなかったのでバブルとなってしまいました。今回は上記の7つを詳しく見ていきます。
要素1:エンジニアリング
偉大なテクノロジー企業は二番手ライバルよりも何十倍も優れたプロプライエタリ・テクノロジーを持たなくてはならない。だけど、クリーンテクノロジー企業は既存技術の10倍どころか、2倍の改善さえできなかった。
クリーンテクノロジー企業に関わらず、どんな企業でもプロダクトに新たな技術を採用することはさほど難しくないです。ただし、その改善がユーザーにとってどうでも良いことならばあまり意味がないかもしれません。最もクリーンテクノロジーや再生可能エネルギーのプロダクトは改善が目に見えにくく差別化が難しいと言います。
ユーザーのための改善を10倍行ったプロダクト開発ができれば今でもクリーンテクノロジー企業は盛り上がっていたかもしれません。
要素2:タイミング
1970年に世界初のマイクロプロセッサが開発されて以来、コンピューターは急速どころか指数関数的に進化した。インテルの製品開発の歴史を見ればそれは明らかだ。
ピーター・ティールは、コンピュータの進歩を例に説明しています。クリーンテクノロジーや環境分野の技術の進歩は非常にゆったりとしたものです。今後早くなっていく可能性もありますが、現在はゆったりとしています。
動きの遅い市場に参入することが賢い戦略となる場合もあるけれど、それは市場を独占できるような具体的かつ現実的な計画がある時だけだ。
また、環境の市場は成長がゆっくりです。近年では電力自由化などが行われ、多少の動きは見れますが、他の市場と比べると旧態依然としています。市場の動き方を見ての参入も重要な要素となり得そうです。
要素3:独占
「インターネット市場は数十億ドル規模。エネルギー市場は数兆ドル規模」だ。でも、数兆ドル規模の市場が過酷で血なまぐさい競争の場であることを、彼は言い忘れたようだ。
環境の市場は、実はすごく巨大です。国やエネルギー問題が関わっているだけに大きなお金が動いています。ただし、クリーンテクノロジーの起業家は、救いようのないほど市場の捉え方を勘違いしているとピーター・ティールは言います。
上記の画像は、クリーンテクノロジー起業家の市場の捉え方を模擬的に表した図です。左側の大きな円は、「アメリカの太陽光発電能力」です。950MWです。
左側の小さな円は、「あなたの会社の太陽光発電能力」です。100MWです。つまり市場の10.52%を占めています。
ただし、右側の円で見るとどうでしょうか。右側の大きな円は、「グローバルな太陽光発電能力」です。18GWです。
そうすると「あなたの会社の太陽光発電能力」は、市場の0.02%になってしまいます。
つまり、巨大な市場であるがゆえに占められる割合が非常に小さなものになる恐れがあるということです。特に、0.02%しか占めていない企業のプロダクトは誰も使おうとしません。
市場が大きいがゆえに潜んでいる落とし穴だとピーター・ティールは言います。
要素4:人材
クリーンテクノロジーの失敗企業を経営していたのは、驚くほどテクノロジーに疎いチームだった。
かつてのクリーンテクノロジーの企業を経営していたのは、ほとんどが営業マンやスーツを着たCEOだったと言います。さらにこの人たちはいいプロダクトを作ることにあまり重きを置いていませんでした。
売り込みや資金調達のうまい人たちが集まったがゆえに、中身のない市場になってしまったと言います。
要素5:販売
クリーンテクノロジー企業は政府や投資家との付き合いはうまかったけれど、消費者のことを忘れていたようだ。
クリーンテクノロジーのプロダクトの技術力はさることながら、もちろん販売も十分でなかったと言います。特にクリーンテクノロジーは、プロダクトの抽象性が高く、消費者は一体何を買わされているのかわかりづらいです。
電気自動車スタートアップ、ベタープレイスは、2007年から2012年の間に8億ドル以上を調達し、交換可能なバッテリーパックと充電ステーションを開発した。
このプロダクトは、消費者は一体何を買っているのでしょうか。バッテリーパック単体では動きませんので、ベタープレイスの車を先に購入しなければなりません。また車の購入にはかなり高いハードルがあります。
このように消費者にわかりづらい実態が失敗を加速させたと言われています。
要素6:永続性
今から10年から20年先に、世界はどうなっていて、自分のビジネスはその世界にどう適応しているだろうか?
この問いにきちんと答えられる環境テクノロジー企業はほとんどなかったと言います。アメリカのエバーグリーン・ソーラーは破産申請の数ヶ月前に次のように言っていたらしいです。
我々の生産コストは初期計画を下回り、大半の欧米メーカーをも下回っているが、中国の格安ライバルをはるかに上回る...
これは、中国の生産コストを下回ることが困難でなくなってしまったパターンです。つまりその事業が永続的に中国のプロダクトよりも優位性を担保できるものでないと、淘汰されてしまう傾向にあるということです。
要素7:隠れた真実
偉大な会社は隠れた真実に気づいている。具体的な成功の理由は、周りから見えないところにある。
2000年代初頭から2010年代前半まで環境問題の重要性、そして再生可能エネルギーの取り組みというのは盛んに行われていました。現在も行われているが最もメディアに取り上げられ、企業が参入しだしたのはこの辺りです。
環境問題という性質上、「社会企業」と言われる会社も増えていたと言います。また、彼らは営利を第一にしないというビジョンも含まれていたために多くが失敗していったと言います。
最良のビジネスは見過ごされがちで、大抵は大勢の人が手放しで賞賛するようなものでない。
スタートアップならなおさら誰も踏み入らないような場所に足を踏み入れ、一気に駆け抜ける方が向いているのかもしれません。
7つの質問に全て答えたイーロンマスク
タイミング
2010年1月オバマ政権が環境ビジネスの創出を優先的な政治課題とした時、補助金を予算に組み込みました。イーロンマスクは、これを1回きりのチャンスと見込み、エネルギー省から4億6500ドルを確保したと言います。
独占
テスラは、電気スポーツカー市場という極めて小さな市場から独占をはじめました。そしてその後に環境事業を広めていきました。
チーム
イーロンマスクは、エンジニアであり、最高のセールスマンでもあります。つまり、販売とエンジニアリングの両面をチーム力でクリアしました。最高のエンジニアであり、セールスマンであるイーロンマスクがうまく採用をしていったと言います。
販売
テスラは、販売を重要視していました。自社の販売網を確保することで独占と販売をうまくやってのけました。
永続性
みんなが欲しがるブランドになったテスラは、なかなか消滅しないと言います。また、車という買い物が消費者にとって大きな信頼を得たということになります。
隠れた真実
テスラは、環境ビジネスが今後勃興することを知っていました。ただし、プリウスやインサイトは誰でも乗れる車であることも知っていました。そこでテスラは、単に乗っているだけで地球に優しいかっこいい車の開発を目指しました。
これは、他の企業が気がつかなった隠れた真実の1つでした。
小さく始める
ピーターティールは、最後にさらに付け足します。もしクリーンテクノロジーのような分野で事業を起こす場合に小さく始めることが大切だと言います。
小さくはじめ、独占した市場でさらに環境に貢献するとうまくいくかもしれません。また、ZERO to ONEが出版されてから時間が経っていますので、新たな市場が立ち上がっているということも言えます。再生可能エネルギーから電力自由化やガスの自由化がトレンドになりつつあります。
ただし、未だ突き抜けた企業が出てこないのは、ピーター・ティールのいう7つをうまくクリアしていないというのも1つの要因として考えられます。
今回ブログで紹介したのは、ZERO to ONEの一部です。他にもピーター・ティール独自の視点から切り込んだ内容がたくさんあるので、まだ読んでない人は一度読んでみることをお勧めします。
長くなりましたが、今回はこれで終わりです。